大阪高等裁判所 昭和56年(ラ)280号 決定 1981年9月21日
抗告人
都電気工事株式会社
右代表者
千葉武
右代理人
古家野泰也
相手方
昭南電気株式会社
右代表者
阪西昂
右代理人
久保義雄
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一抗告人の抗告の趣旨と理由は別紙(一)及び(二)記載のとおりであり、相手方の意見は別紙(三)記載のとおりである。
二当裁判所の判断
1 記録によると、次の事実を認めることができる。
(一) 相手方は、昭和五四年三月ころから継続的取引契約により抗告人に対し電気製品を売渡していたが、昭和五五年九月二七日から昭和五六年五月二〇日までの間に、原決定添付別紙納品一覧表1ないし4記載のとおり代金合計一四七八万四五四七円の電気製品(照明器具、電線、分電盤、パイプ、配線器具、インターホーン、クーラー、換気扇等)を売渡した。
(二) 抗告人は、第三債務者株式会社長谷川工務店(以下「長谷川工務店」という。)の注文により、(1) 昭和五五年一〇月三〇日、工事現場吹田市豊津町一の六所在のサンマンション江坂の電気工事を代金二七六〇万円で請負い、(2) 同年九月ころ、工事現場大阪市淀川区西宮原二丁目七番他所在のフルーレ第二新大阪の電気工事を代金三〇〇〇万円で請負い、(3) 昭和五六年三月三日、工事現場吹田市藤ケ丘町二九八五の二他所在のコーポ野村藤ケ丘の電気工事を代金一九五〇万円で請負い、(4) 同日、工事現場大阪市淀川区加島四丁目七九九の一所在のKB加島グリーンマンションの電気工事を代金二〇五〇万円、同追加工事を代金一六七万円で請負つた。
(三) 長谷川工務店から抗告人に宛てた右(1)、(3)、(4)の各工事の注文書の契約条項第五項には、「施工場所及び附属置場に搬入の検査済材料のうち注文者が支払をした部分はすべて注文者の所有とする。」と記載されている。
(四) 原決定添付別紙納品一覧表1記載の電気製品は右(1)の工事現場に、同2記載の電気製品は右(2)の工事現場に、同3記載の電気製品は右(3)の工事現場に、同4記載の電気製品は右(4)の工事現場にそれぞれ搬入され、右各工事現場の請負工事に使用された。
2 右事実によれば、抗告人の長谷川工務店に対する原決定添付別紙納品一覧表(担保権、被担保債権、請求債権目録の分)1ないし4記載の電気製品の供給は、右各請負契約に基づくものであるというべきところ(右(三)の事実によれば、請負契約とは別個の材料の売買契約があつたようにも考えられないではないが、右各注文書における注文金額やその他の契約条項を総合すると、請負契約とは別個の売買契約があつたとは認め難い。)、原決定の差押債権目録には被差押債権は「抗告人の長谷川工務店に対する昭和五五年九月二七日ころから昭和五六年五月二〇日ころまでの間に売渡した別紙納品一覧表記載の商品の代金債権の内金一四七八万四五四七円」である旨記載されているが、原決定添付の納品一覧表(差押債権目録の分)1ないし4にはそれぞれ工事現場として前記(1)ないし(4)の工事現場名が記載されており、かつ、建設業者として長谷川工務店、電気工事業者として抗告人の各表示がなされておるから、右一覧表記載の納品年月日の記載と相まつて、被差押債権は、右差押債権目録の記載にもかかわらず、前記各請負契約による請負工事代金債権(報酬請求権)であると認識することができる。
3 抗告人は、請負代金債権の上に物上代位権を行使することはできない旨判旨主張するが、一般的にいつて、請負代金の中に当該工事に使用された材料代金が事実上含まれているような場合には、右請負代金の上に物上代位権を行使することができると解するのが、公平を旨とする物上代位制度の趣旨に合致するものというべきところ、前記認定事実によれば、抗告人の前記各請負工事は、相手方より買受けた電気製品を材料としてなされたものであり、右請負代金中には実質的に工事に使用された右材料代金が含まれているものと認めるのが相当であるから、相手方は、右請負代金債権の上に本件電気製品売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができるものである。
4 よつて、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。
(小西勝 大須賀欣一 吉岡浩)
別紙(一)
〔抗告の趣旨〕
原命令を取り消すとの裁判を求める。
〔抗告の理由〕
1 原命令は、抗告人と第三債務者長谷川工務店との材料供給関係を売買であると把え、先取特権(物上代位)を認めている。しかしながら、この関係は、売買ではなく請負である。請負代金に先取特権(物上代位)が及ぶとみるのは失当であり、原命令には違法がある。
2 又、長谷川工務店と抗告人との請負において、その代金は、毎月の出来高を査定して、支払われる扱いである。
材料納品の事実は、出来高査定の基礎となるが、これは、毎月請負代金として決済されているので、債権者主張の分の材料に関しては、この多くが清算されている筈である。
別紙(二)、(三)<省略>